糸リフトはどこから入れる?こめかみ・髪の生え際など挿入部位とデザインを解説

糸リフトの仕上がりを左右する重要な要素は、糸の種類だけでなく、どこから入れてどの方向に引き上げるかという「挿入部位」と「デザイン」にあります。多くの施術では、傷跡が目立ちにくいこめかみや髪の生え際(ヘアライン)、耳周りなどを刺入点として選択します。

お顔のたるみ方や骨格、改善したい部位によって適したアプローチは異なります。例えば、ほうれい線ならこめかみ、マリオネットラインなら耳の下といった具合です。

本記事では、糸リフトの具体的な挿入位置やデザインの考え方、部位ごとのメリットなどを詳しく解説します。これから施術を検討している方が、医師との対話で希望を具体的に伝えるための知識をまとめましたので、ぜひ参考にしてください。

この記事を書いた人

百人町アルファクリニック 院長 荻野 和仁

荻野 和仁
百人町アルファクリニック 院長
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医学博士
2014年 日本形成外科学会 専門医取得
日本美容外科学会 会員

【略歴】
獨協医科大学医学部卒業後、岩手医科大学形成外科学講座入局。岩手医科大学大学院卒業博士号取得、2014年に日本形成外科学会専門医取得。大手美容クリニックの院長を経て2017年より百人町アルファクリニックの院長を務める。

百人町アルファクリニックでは、糸を使った切らないリフトアップから、切開部分が目立たないフェイスリフトまで患者様に適した方法をご提案していますが、若返り手術は決して急ぐ必要はありません。

一人ひとりの皮下組織や表情筋の状態に合わせた方法を探し「安全性」と「自然な仕上がり」を第一に心がけているため、画一的な手術をすぐにはいどうぞ、と勧めることはしていません。

毎回手術前の診断と計画立案に時間をかけすぎるため、とにかく安く、早くこの施術をして欲しいという方には適したクリニックではありません。それでも、リフトアップの施術を年間300件行っている実績から、患者様同士の口コミや他のドクターからのご紹介を通じ、全国から多くの患者様に当院を選んでいただいています。

このサイトでは、フェイスリフトやたるみに関する情報を詳しく掲載しています。どうか焦らず、十分に勉強した上で、ご自身に合ったクリニックをお選びください。もちろん、ご質問やご相談があれば、いつでもお気軽にお問い合わせいただければ幸いです。

目次

糸リフトの基本的な挿入部位と仕組み

糸リフトにおいて、糸を挿入する場所(刺入点)の選定は、リフトアップ効果の持続性や自然な仕上がりを決定づける非常に重要な要素です。

基本的には、髪の生え際やこめかみ、耳の近くなど、日常生活で傷跡が目立ちにくい場所を選んで小さな穴を開け、そこからカニューレと呼ばれる管を使って糸を皮下組織に通します。顔の正面に目立つ傷をつけることはまずありません。

医師は患者様の骨格や皮膚のたるみ具合を診断し、重力に逆らうベクトルを計算して挿入位置を決定します。適切な場所から適切な層へアプローチすることで、組織を元の位置へ復元し、若々しい輪郭を形成します。

こめかみからのアプローチと引き上げ効果

こめかみ(側頭部)は、糸リフトにおいて最も頻繁に使用する挿入部位の一つです。この位置は髪の毛の中に隠れるため、術直後から傷跡が他人の目に触れる心配がほとんどありません。

こめかみから糸を入れる最大の利点は、顔全体を斜め上方向へ強力に引き上げるベクトルを作りやすい点です。特に中顔面(頬の中心部)やフェイスラインのたるみに対して、垂直に近い角度でアプローチします。

その結果、重力で下がった脂肪や皮膚を効果的に持ち上げることができます。こめかみの深側頭筋膜という強固な組織を固定源として利用する場合もあり、このテクニックを用いると、引き上げた組織が後戻りしにくくなる傾向があります。

ただし、こめかみ付近には重要な血管や神経が走行しています。そのため、解剖学を熟知した医師による慎重な操作が求められます。

髪の生え際を利用した傷跡の目立たない施術

もみあげ周辺や額の生え際(ヘアライン)も、ポピュラーな挿入ポイントです。ここからのアプローチは、特にほうれい線やマリオネットラインへの距離が近いことが特徴です。

距離が近いぶん、よりダイレクトに気になる部分へ糸を届かせることができます。髪の生え際ギリギリ、あるいは数ミリ髪の毛の中に入った部分に針穴を開けるため、傷は髪の毛で隠れます。

この部位を選択する場合、医師は毛根を傷つけないように細心の注意を払います。カニューレの操作によって毛根が損傷すると、その部分だけ髪が生えてこなくなるリスクがあるためです。

技術のある医師は、毛包の向きを考慮して針を刺入します。ヘアラインからの挿入は、こめかみよりも低い位置からアプローチできるため、横方向(耳側)への引き締め効果を重視したい場合に適しています。

顔の横幅を広げずに、タイトな輪郭を作りたい場合に有効な選択肢となります。

主な挿入部位の特徴比較

それぞれの挿入部位には、得意とする悩みや特徴があります。以下に代表的な部位の違いを整理しました。

挿入部位適した悩み特徴
こめかみ(側頭部)フェイスライン、中顔面のたるみ強力な引き上げが可能で、傷跡が髪に完全に隠れるため目立ちにくい。
もみあげ(生え際)ほうれい線、口元のたるみ悩みのある部位までの距離が近く、細かな調整がしやすい。
耳の下(耳介後部)あご下のたるみ、二重あごフェイスラインを後ろへ引き締め、首元のラインを整えるのに適している。

耳周りから挿入する場合の適応エリア

耳の前や耳の下(耳たぶの裏側あたり)から糸を入れる手法は、主にフェイスラインの下部やあご下のたるみを改善したい場合に用います。

特に「ジョールファット」と呼ばれる口横の脂肪が下がってブルドッグのような見た目になっている場合、耳の方向へ水平に引き上げることで、すっきりとしたVラインを形成します。

耳の下から首にかけてのアプローチは、二重あごの改善にも寄与します。このエリアは皮膚が比較的薄くデリケートなため、使用する糸の種類や太さを慎重に選ぶ必要があります。

耳の形状に沿ってデザインするため、傷跡は耳のシワや影に同化しやすく、術後の経過とともにほとんどわからなくなります。正面から見た時の変化だけでなく、横顔のシャープさを出したい時に重要な挿入ポイントとなります。

挿入部位によって変わるリフトアップのベクトル

糸リフトのデザインにおいて「ベクトル(引く方向)」の概念は非常に重要です。同じ糸を使用しても、どこから入れてどの方向へ引くかによって、仕上がりの顔立ちは大きく異なります。

例えば、こめかみから垂直方向に引き上げれば、目がつり上がったようなシャープな印象になりやすく、もみあげから水平方向に引けば、自然に若返ったようなナチュラルな仕上がりになります。

顔の中心部に脂肪が多いタイプの方は、斜め上方向への強いベクトルが必要です。一方で、頬がこけているタイプの方は、単純に引き上げると頬骨が目立ってしまうリスクがあります。

そうしたケースでは、曲線を描くように糸を通してボリュームを移動させるようなデザインが必要です。医師はカウンセリング時に患者様の顔を触診し、皮膚の可動性を確認しながら、一人ひとりに合ったベストなベクトルを計画します。

部位別の悩みに対する適切な挿入ポイント

顔のたるみと一口に言っても、ほうれい線が気になるのか、口元のマリオネットラインが悩みなのかによって、狙うべきターゲット層と最適な挿入ポイントは異なります。

あるいは、フェイスラインのもたつきを解消したいのかによってもアプローチは変わります。それぞれの悩みに特化したアプローチを行うことで、限られた本数の糸でも大きな変化を出すことが可能です。

ここでは、具体的な悩み別に、医師がどのように挿入位置を決定しているかを解説します。解剖学的な根拠に基づいたデザインが、満足度の高い結果を生み出します。

ほうれい線を改善するための挿入位置

ほうれい線は、頬のメーラーファットと呼ばれる脂肪体が重力で下がり、鼻唇溝(びしんこう)の上に被さることで深くなります。これを改善するには、下がってきたメーラーファットを元の高い位置に戻す必要があります。

この場合、こめかみやもみあげの上部を刺入点とすることが一般的です。高い位置から糸を入れ、ほうれい線の直上にある脂肪層まで長い距離を通して引き上げます。

こうして頬全体をふっくらと持ち上げ、結果としてほうれい線を薄くします。単に溝を埋めるのではなく、上から被さってくる重みを取り除くイメージです。

場合によっては、頬骨弓(きょうこつきゅう)と呼ばれる骨のアーチの下を通すような深い層へのアプローチを行い、より強固なリフトアップを図ることもあります。

悩みと推奨されるアプローチ

お悩み別におすすめの挿入ポイントをまとめました。鏡を見ながらご自身の気になる部分と照らし合わせてみてください。

悩みターゲットとなる組織主な挿入ポイント
深いほうれい線メーラーファット(頬の脂肪)こめかみ、もみあげ上部
マリオネットライン口角下制筋周辺の皮膚・脂肪もみあげ下部、耳前部
フェイスラインの崩れ広頸筋、下顎縁の皮膚耳介前後、耳たぶ裏

マリオネットライン解消に向けたデザイン

口角から顎にかけて伸びるマリオネットラインは、口周りの筋肉の衰えと皮膚のたるみが原因で生じます。このラインを改善するためには、口元に溜まった皮膚や脂肪を耳側へ逃がすようなデザインが必要です。

そのため、もみあげの下の方や耳の前の付け根あたりを刺入点として選びます。ここから口角の横に向かって糸を挿入し、マリオネットラインの原因となっている膨らみを斜め後方へと引き上げます。

この領域はよく動く部分であるため、伸縮性のある糸や、柔軟性のある素材を選ぶことが大切です。あまり強く引きすぎると、笑った時に引きつれが生じたり、えくぼのような凹みができたりすることがあります。

そのため、医師の繊細な加減が必要です。自然な表情を損なわない範囲で、口元の影を消すデザインが求められます。

フェイスラインのもたつきを引き上げる場所

シャープな顎のライン(Vライン)を取り戻すためには、下顎骨(かがくこつ)の縁に沿った皮膚を引き締める必要があります。この場合、耳の付け根や耳の裏側からアプローチし、フェイスラインに沿って糸を通します。

重力で曖昧になった顔と首の境界線をはっきりさせるデザインです。特にエラ付近の皮膚が厚い方は、太めでコグ(棘)のしっかりした糸を使用し、物理的に組織を持ち上げる力を強化します。

挿入位置を耳の後ろ側に設定することで、リフトアップの方向をより後方へと向けられます。その結果、正面から見た時の顔幅を狭く見せる効果も期待できます。これにより、顔が小さく見える小顔効果も同時に得ることができます。

ジョールファットを移動させるためのアプローチ

口横のふくらみであるジョールファットは、老けた印象を与える大きな要因です。この脂肪は単に引き上げるだけでなく、こめかみ方向や頬の凹んでいる部分へ「移動」させるという考え方でデザインします。

脂肪吸引を併用することもありますが、糸リフト単独で行う場合は、脂肪をコグで引っ掛けて配置を変えるイメージです。こめかみやもみあげから、ジョールファットの下端までしっかりと糸を通し、脂肪塊全体を持ち上げます。

この時、一度引き上げた脂肪が再度下がってこないよう、複数の糸をクロスさせたり、網目状に入れたりして面で支えるテクニックを使うこともあります。

ジョールファットの位置が変わるだけで、顔の四角い印象が改善され、若々しい卵型の輪郭に近づきます。

こめかみリフトの詳細と注意点

こめかみからのアプローチは非常に効果的である反面、知っておくべき特徴や注意点も存在します。解剖学的に見て、こめかみ部分はいくつかの層が重なり合っています。

適切な層(レイヤー)に糸を通さなければ効果が出ないばかりか、痛みや凹凸の原因となります。ここでは、こめかみリフトに特化した詳細な情報と、患者様が理解しておくべきリスク管理について説明します。

こめかみ切開の範囲と傷跡の経過

「切開」といっても、糸リフトの場合はメスで大きく切るわけではありません。通常は18G(ゲージ)程度の太さの針、あるいは尖刀(せんとう)と呼ばれる器具で、1ミリから2ミリ程度の小さな穴を開けるだけです。

この穴は縫合する必要がないほど小さい場合が多く、縫ったとしても1針程度です。こめかみの有毛部(髪の毛が生えている部分)の中に穴を開けるため、施術直後でも髪を下ろせば全く見えません。

傷跡は数日でふさがり、かさぶたになります。1ヶ月もすれば赤みが引き、最終的にはどこを切ったのか自分でもわからなくなるほど綺麗に治ります。

ただし、ケロイド体質の方などは事前に医師に相談することが必要です。傷跡の治癒過程には個人差がありますが、顔の表面に傷が残らない点は大きなメリットと言えます。

中顔面へのアプローチにおける有効性

中顔面(目の下から口の上あたりまでの範囲)が平坦化し、下がってくることはエイジングの初期サインです。こめかみリフトは、この中顔面を垂直かつ斜め方向に引き上げるのに非常に適しています。

SMAS(表在性筋膜群)と呼ばれる顔の土台となる層を引き上げる際、こめかみの不動の組織(側頭筋膜など)を固定点(アンカー)として利用できるためです。動かない組織に糸の一端を固定し、動いてしまった組織を引き寄せることで、確実なリフトアップ効果が生まれます。

その結果、ゴルゴラインの緩和や、頬の高い位置(オーギーライン)の復活が期待できます。中顔面に立体感が出ることで、平面的でのっぺりとした印象から、メリハリのある若々しい顔立ちへと変化します。

こめかみリフトの留意事項

こめかみからのアプローチには特有の感覚や注意点があります。事前に知っておくことで、術後の不安を軽減できます。

  • 施術直後は口が開けにくい感覚が生じることがあります(数日で改善します)。
  • こめかみ付近を触ると、糸の結び目や末端に触れる違和感を感じる期間があります。
  • 側頭部の筋肉(側頭筋)の動きに伴い、食事の際などに独特の引き攣れ感を感じる場合があります。
  • 稀に一時的な偏頭痛のような症状が出ることがありますが、鎮痛剤でコントロール可能です。

術後の偏頭痛や違和感のリスク

こめかみから側頭部にかけては、咀嚼(そしゃく)に関わる筋肉である側頭筋が存在します。糸を挿入する際、この筋肉の近くや筋膜を通すことがあるため、術後に筋肉痛のような鈍痛を感じることがあります。

場合によっては、偏頭痛に似た症状を感じることもありますが、これは糸が組織に馴染むまでの過程で起こる一時的な反応です。また、皮膚をしっかりと引き上げている証拠として、突っ張り感や違和感を覚える方もいます。

これらは通常、1週間から2週間程度で自然に消失します。痛みが強い場合は処方された痛み止めを服用することで日常生活に支障なく過ごせます。

万が一、耐え難い痛みが続く場合や、腫れが強くなる場合は、速やかにクリニックを受診することが大切です。

ダウンタイム中に気をつけるべき生活習慣

こめかみに刺入点がある場合、シャンプーや洗顔の際に無意識に爪を立ててしまわないよう注意が必要です。傷口が完全に塞がるまでは、優しく指の腹で洗うようにします。

また、美容院でのヘッドスパや強い力での頭皮マッサージは、術後1ヶ月程度は避けることが賢明です。就寝時は、患部を圧迫しないように仰向けで寝ることを推奨します。

横向きで寝ると、枕との摩擦で傷口に負担がかかったり、片側の糸に予期せぬ力が加わったりする可能性があります。挿入部位を清潔に保ち、過度な刺激を与えないことが、順調な回復への近道です。

髪の生え際(ヘアライン)からのアプローチ法

額の生え際やもみあげのラインを利用するアプローチは、こめかみ法と並んで頻用されるテクニックです。特に皮膚の余剰が多い場合や、より表面に近い層(皮下脂肪層)を引き締めたい場合に適しています。

髪の毛の中ではなく、生え際ギリギリを狙うことで、髪の毛を巻き込むリスクを減らしつつ、最大限の効果を狙う手法について解説します。

ヘアライン切開の特徴と適している顔の形

ヘアラインからのアプローチは、顔の側面から中央に向かって糸を入れるため、顔の外側(ラテラル)を引き締める効果が高いです。これにより、顔の横幅が広がって見えるのを防ぎ、正面から見た時の輪郭をタイトにします。

特に、頬骨が張っているタイプの方や、丸顔の方に適したアプローチと言えます。刺入点を生え際のライン上に設定することで、糸の張力をダイレクトに皮膚へ伝えることができます。

髪の毛が薄い方や、生え際が後退している方の場合は、傷跡が見えないよう、あえて生え際より数センチ後ろの有毛部を選択するなど、個々の状態に合わせた微調整を行います。

柔軟なデザインが可能である点が、この部位の大きな特徴です。

ヘアラインアプローチのメリットとデメリット

ヘアラインからの施術を選択する前に、メリットだけでなくデメリットも理解しておくと、納得のいく選択ができます。

観点詳細内容
メリットターゲット部位までの距離が短いため、引き上げの微調整が効きやすい。
メリット横方向への引き締め効果が高く、小顔効果を出しやすい。
デメリット生え際が見える髪型(オールバック等)の場合、直後は小さなカサブタが見える可能性がある。
デメリット浅い層に入れすぎると、糸のラインが皮膚表面に浮き出るリスクがある。

側頭筋膜への固定と持続期間の関係

ヘアラインから挿入した糸をどこに固定するかは、持続期間を左右する鍵となります。多くの熟練した医師は、糸の端を側頭筋膜(Deep Temporal Fascia)などの硬い組織に引っ掛ける、あるいは固定するテクニックを用います。

この筋膜は加齢による変化が少ない強靭な組織であるため、ここにしっかりと固定されることで、リフトアップ効果が長期間維持されます。

単に皮下脂肪の中に糸を浮かせた状態で留置する(フローティングタイプ)よりも、どこか一箇所でも固定点を作る(アンカータイプ)方が、重力に対する抵抗力は強くなります。

ヘアライン周辺はこの固定点を作りやすい解剖学的構造をしているため、しっかり引き上げたい場合には非常に有利な場所です。

脱毛や傷跡のリスクを最小限にする技術

有毛部に針を刺す際、最も懸念されるのが「脱毛」です。毛根を傷つけてしまうと、その部分だけ永久的に毛が生えなくなる可能性があります。

これを防ぐため、医師は拡大鏡(ルーペ)を使用したり、毛の生えている向きと平行に針を進めたりするなどの工夫を行います。また、切開を最小限に留め、組織へのダメージを抑えることで、血流障害による二次的な脱毛も防ぎます。

経験豊富な医師であれば、これらのリスクは極めて低く抑えられます。万が一、小さな脱毛斑ができたとしても、時間の経過とともに周囲の毛でカバーできる程度であることがほとんどです。

リスクはゼロではありませんが、技術力の高いクリニックを選ぶことで回避できる可能性が高まります。

糸の本数と挿入部位のバランス設計

「糸は何本入れればいいですか?」という質問は非常に多く寄せられますが、正解は「入れる場所とデザインによる」となります。少ない本数でも的確なポイントから入れれば効果が出ることもあれば、その逆も然りです。

ここでは、本数と挿入部位の最適なバランス、そして左右差を調整するための戦略について掘り下げます。

左右差を整えるための本数調整

人間の顔は完全に左右対称ではありません。骨格の歪み、筋肉の付き方、噛み癖などにより、たるみの程度も左右で異なります。そのため、糸リフトを行う際も、左右で同じ本数、同じ場所に入れるのが正解とは限りません。

例えば、右側のたるみが強い場合は、右側だけ糸を1本多く追加したり、挿入する角度を急にして引き上げ力を強めたりします。あるいは、左側のボリュームが大きい場合は、左側の脂肪を引き締めるデザインを強化します。

このように、左右それぞれの状態に合わせてオーダーメイドで設計図を描くことが、仕上がりの美しさに直結します。画一的なマニュアル通りの施術ではなく、その場の判断力が問われる部分です。

本数決定に関わる要素

糸の本数は医師の経験則だけで決まるわけではありません。以下のような要素を総合的に判断して決定されます。

  • 皮膚の厚みと弾力性(厚い皮膚ほど重力に負けないよう多くの本数が必要な傾向がある)。
  • たるみの進行度合い(重度のたるみには、面で支えるための本数が必要)。
  • 希望する引き上げの強度(ナチュラル志向か、しっかり変化を出したいか)。
  • 予算との兼ね合い(無理のない範囲で最大の効果が出るプランニング)。

少ない本数で効果を出すための挿入角度

予算やダウンタイムの都合で、少ない本数(例えば片側3本ずつなど)で施術を行いたい場合、挿入角度の工夫が不可欠です。限られた本数で最大の面積を引き上げるためには、デザインの工夫が必要です。

糸を放射状に広げて配置するか、あるいは最もたるみが顕著なポイント(キーポイント)に集中させるかの選択が求められます。一般的には、こめかみの一点から扇状に広がるように糸を配置すると、少ない本数でも頬全体をカバーできます。

また、重力のベクトルに対して垂直に交わるように糸を入れることで、1本あたりのリフトアップ効率を高めることができます。医師は物理学的な視点を持って、効率の良いベクトルを計算します。

複数箇所から入れるコンビネーション治療

高度なリフトアップを目指す場合、1箇所の刺入点だけに頼るのではなく、こめかみ、もみあげ、耳下など、複数の入り口を組み合わせる「マルチベクトルアプローチ」が有効です。

異なる方向から糸を入れることで、顔の組織を立体的に構築し直すことができます。例えば、こめかみからは縦方向の引き上げを行い、耳前からは横方向の引き締めを行うといった具合です。

このように網の目のように糸を張り巡らせることで、ハンモックのように強固に組織を支えることが可能になります。持続性も高まり、より自然で立体的、かつ後戻りの少ない仕上がりが実現します。

失敗しないためのデザインと医師の技術

糸リフトの成否は、使用する糸の製品力以上に、医師のデザイン力と技術力に依存します。解剖学を無視したデザインや、不適切な層への挿入は、ひきつれや凹凸、効果の欠如といった失敗を招きます。

ここでは、失敗を避けるために医師がどのような点に注意してデザインを行っているか、その裏側にある専門的な視点を解説します。

骨格に合わせたオーダーメイドの挿入計画

骨格は人それぞれ異なります。頬骨が高い人、エラが張っている人、顎が小さい人など、千差万別です。糸リフトのデザインにおいては、これらの骨格の特徴を正確に把握する必要があります。

その上で、「出してはいけない部分」と「出すべき部分」を見極めることが重要です。例えば、頬骨が横に張り出している人に、さらに頬骨の上に組織が集まるような引き上げ方をしてしまうと、顔が大きく見えてしまいます。

このようなケースでは、頬骨の下を通るルートを選択し、あえてボリュームを分散させるようなデザインにします。逆に、頬がこけている人には、こけを埋めるように組織を移動させます。

骨格という動かせない土台の上で、軟部組織をどう配置するかを考えるのが医師の役割です。

デザイン設計時のチェックポイント

医師はデザインの際、以下のようなポイントを瞬時に判断しています。ご自身の顔立ちを知るヒントにもなります。

確認項目考慮すべき内容
頬骨の位置と高さ頬骨を強調しすぎないルート選定。
皮膚の可動域指で引き上げた時にどこまで動くか(シミュレーション)。
脂肪の付き方重い脂肪がある場所と、ボリュームが足りない場所の把握。
表情筋の動き笑った時に不自然な凹みや線が出ないか。

皮膚の厚みと挿入層の深さの重要性

糸を通す深さ(層)は非常に重要です。浅すぎると皮膚表面に糸の凹凸が透けて見えてしまったり、痛みを感じやすくなったりします。逆に深すぎると、リフトアップ効果が弱まったり、神経損傷のリスクが高まったりします。

適切な層は、皮下脂肪層の中、あるいはSMAS層の直上です。皮膚が薄い人は特に注意が必要です。医師はカニューレを進める際の手の感覚で、今どの層を通っているかを常に確認しています。

抵抗感なくスムーズに進む層を探り当て、一定の深さを保ったまま糸を留置する技術が求められます。この「層のキープ力」が、仕上がりの滑らかさを決定します。

ひきつれや凹凸を防ぐための刺入点設定

術後のトラブルで多いのが「ひきつれ(ディンプル)」です。これは、糸のコグが皮膚の浅い部分に引っかかりすぎて、えくぼのような凹みを作ってしまう現象です。

これを防ぐためには、刺入点の位置だけでなく、糸を出てこさせる点(出口はないですが、糸の先端が位置する場所)の設定も重要です。表情によって大きく動く口周りなどに糸の先端が来ると、笑った時にチクチクしたり、変な線が入ったりします。

医師は表情筋の動きを予測し、動きの少ない安全なエリア(セーフティゾーン)内に糸が収まるように長さを調整します。また、刺入点周辺の皮膚を過剰に巻き込まないよう、リリースの操作(解除操作)を行うことも大切です。

術後の経過と刺入部のケア方法

無事に施術が終わった後、適切なアフターケアを行うことで、傷跡を綺麗に治し、リフトアップ効果を長持ちさせることができます。

特に挿入部(刺入点)は外部と体内を繋ぐ入り口であった場所なので、感染予防の観点からも慎重な扱いが必要です。ここでは、術後の具体的な経過と、日常生活での注意点をまとめます。

挿入部の傷跡が消えるまでの期間

こめかみや生え際に開けた針穴は、施術直後からすでにかさぶた形成が始まり、出血も止まっていることがほとんどです。大きさはニキビの跡程度かそれ以下です。

2〜3日は赤みが残る場合がありますが、髪の毛で隠れるため他人から指摘されることはまずありません。1週間も経過すればかさぶたが自然に剥がれ落ち、ピンク色の新しい皮膚が見えてきます。

その後、徐々に周囲の皮膚と同じ色に馴染んでいきます。完全にわからなくなるまでには1ヶ月〜3ヶ月程度かかることもありますが、コンシーラー等で隠す必要もないほど目立たないケースが大半です。

体質により色素沈着が起きやすい方は、UVケアを徹底することで跡残りを防ぐことができます。

感染症を防ぐための清潔維持のポイント

稀ではありますが、刺入点から細菌が入り込み、感染を起こすリスクがあります。これを防ぐため、術後当日から翌日にかけては、処方された抗生物質を確実に服用することが必要です。

また、傷口を不潔な手で触らないことが何より大切です。髪の毛には雑菌や整髪料の汚れが付着していることが多いため、傷口に髪が触れるのは避けられませんが、洗髪時にはしっかりと泡立てたシャンプーで頭皮を清潔に保つことが推奨されます。

ただし、ゴシゴシと擦るのではなく、優しく洗い流す程度に留めます。クリニックによっては、抗生剤入りの軟膏を処方される場合があるので、指示通りに塗布します。

洗髪やメイクが可能になるタイミング

多くのクリニックでは、施術当日のシャンプーは控え、翌日から可能としています。これは、当日に入浴などで血行が良くなりすぎると、傷口から滲出液が出たり、腫れが強くなったりするのを防ぐためです。

翌日以降は、ぬるま湯で優しく洗髪することが推奨されます。メイクに関しては、刺入点以外の部分は当日から可能な場合が多いです。

しかし、刺入点そのもの(こめかみ等の傷口)へのメイクは、傷が塞がる翌日〜翌々日まで避けるのが無難です。ファンデーションやコンシーラーが傷口に入り込むと、治癒を遅らせたり感染の原因になったりするからです。

日常生活への復帰は非常に早い施術ですが、数日間だけの我慢が綺麗な仕上がりを守ります。

よくある質問

糸を入れる場所の傷跡は目立ちますか?

ほとんど目立ちません。糸リフトの挿入部位は、こめかみの有毛部(髪の中)や耳の裏側など、普段は見えない場所を選定します。

傷の大きさも注射針の跡程度と非常に小さく、縫合も不要な場合が大半です。数日でかさぶたになり、時間の経過とともに消失しますので、傷跡を気にされる方も安心して受けていただけます。

施術中に痛みを感じる場所はどこですか?

局所麻酔を行う際に、最初のチクリとした痛みを感じることがあります。麻酔が効いてからは、糸を通す感覚や押される感覚はありますが、鋭い痛みは感じません。

特にこめかみや耳周りなど、神経が集中している場所には念入りに麻酔を行います。恐怖心が強い方には、笑気麻酔や静脈麻酔を併用することで、眠っているような状態で施術を受けることも可能です。

一度入れた場所から再度糸を入れることは可能ですか?

可能です。糸リフトは定期的に行うことで効果を維持・強化できる施術です。以前に挿入した場所と同じ入り口(こめかみ等)を使って、再度新しい糸を入れることは一般的に行われています。

前の糸が溶けてコラーゲンに置き換わっている部分に追加することで、より強固な土台を作ることができます。医師が前回の瘢痕(はんこん)組織の状態を確認しながら行います。

こめかみ以外で効果的な挿入場所はありますか?

はい、あります。悩みや改善したい部位によって、もみあげ、耳の前、耳の下、ヘアラインなど様々な場所を選択します。

例えば、マリオネットラインにはもみあげ下部、あご下のたるみには耳の下からのアプローチが有効です。単一の場所だけでなく、複数の場所を組み合わせることで、より立体的でバランスの取れたリフトアップが可能になります。

施術後に挿入部がボコボコすることはありますか?

挿入直後は、皮膚を引き上げたことによる一時的な歪みや、麻酔液の影響で多少の凹凸を感じることがありますが、通常は1〜2週間で馴染みます。

もし、えくぼのような深い凹み(ディンプル)が長く続く場合は、皮膚の浅い層にコグが引っかかっている可能性があります。その場合はクリニックでマッサージや処置を行うことで改善できますので、早めに医師へ相談してください。

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