豊胸手術後も授乳はできる？母乳への影響について解説

豊胸手術をお考えの方、特に将来的に妊娠や出産を希望する方にとって、「手術後にきちんと授乳できるのか」「母乳に悪い影響はないのか」といった点は非常に大きな関心事ではないでしょうか。

バストの形を美しく整えたいという気持ちと、母親として子を育む機能、その両方を大切にしたいと考えるのは自然なことです。

この記事では、豊胸手術が授乳機能や母乳に与える影響について、医学的な見地から詳しく解説します。

豊胸手術と授乳の基本的な関係

多くのケースで授乳は可能

まず結論からお伝えすると、現在の標準的な豊胸手術の方法であれば、多くの場合、手術後に問題なく授乳ができます。

豊胸手術は、母乳を作る「乳腺」や母乳を運ぶ「乳管」を可能な限り温存するようにデザインされているためです。これらの組織を傷つけないよう、細心の注意を払って手術を行うことで授乳機能を維持します。

ただし、手術方法や個人の体質によっては影響が皆無とは言い切れないため、事前のカウンセリングで医師としっかり話し合うことが重要です。

母乳を作る乳腺組織と手術の関係

母乳は、乳腺の中にある「腺房」という小さな組織で作られます。作られた母乳は「乳管」という細い管を通って乳頭まで運ばれます。

豊胸手術で重要なのは、この乳腺や乳管を直接的に損傷しないことです。例えば、シリコンバッグを挿入する場合、乳腺の下やさらに深い大胸筋の下に入れる方法が主流です。

乳腺組織に直接触れることなくスペースを作るため、授乳機能への影響を最小限に抑えることができます。

授乳機能が損なわれる可能性のあるケース

一方で、授乳機能に影響が出る可能性もゼロではありません。例えば、乳頭や乳輪周辺を切開する方法は、乳管を傷つけてしまうリスクが他の方法より高くなる可能性があります。

乳管が傷つくと作られた母乳が乳頭までうまく運ばれなくなり、母乳の出が悪くなる原因となり得ます。

また、手術による神経の損傷で、乳頭の感覚が鈍くなり、赤ちゃんが吸う刺激が脳に伝わりにくくなることも授乳に影響を与える一因として考えられます。

豊胸手術における主な切開位置

切開位置	特徴	乳腺・乳管への影響
脇の下（腋窩）	傷跡が目立ちにくい。	乳腺から離れており、影響は少ない。
アンダーバスト	バッグの挿入経路が短い。	乳腺組織を避けて挿入しやすいため影響は少ない。
乳輪の縁	傷が乳輪の色に隠れて目立ちにくい。	乳管を損傷する可能性が他の部位よりやや高い。

手術時期と授乳のタイミング

豊胸手術を受ける時期も大切です。もし近い将来に妊娠・出産の計画があるなら、手術のタイミングを慎重に検討する必要があります。

一般的には、手術後、バストの状態が完全に落ち着くまでには数か月から1年程度かかります。この期間に妊娠・出産を迎えると、バストへの負担が大きくなる可能性があります。

カウンセリング時にご自身のライフプランを医師に伝え、手術時期について相談しましょう。

豊胸手術の方法別に見る授乳への影響

シリコンバッグを挿入する方法

シリコンバッグ豊胸は、乳腺組織への影響が比較的少ない方法です。「乳腺下法」と「大胸筋下法」という2つの主な挿入方法があり、どちらも乳腺そのものを直接操作するわけではありません。

大胸筋下法は、乳腺からさらに深い位置にバッグを挿入するため、授乳機能への影響はより少ないと考えられています。

どちらの方法を選択するかは、ご自身の体型や希望するバストの形によって決まります。

自身の脂肪を注入する方法

ご自身の体から吸引した脂肪をバストに注入する脂肪注入豊胸も、人気の高い手術です。この方法は、細いカニューレ（管）を使って脂肪を注入するため、乳腺組織へのダメージを抑えることができます。

注入された脂肪は母乳の成分に影響を与えません。ただし、注入した脂肪がしこり（石灰化）になる可能性があり、これが乳がん検診の際に影響しないよう、専門的な知識を持つ医師の技術が求められます。

ヒアルロン酸注入による豊胸

ヒアルロン酸を注入する方法は、メスを使わない手軽さから選ばれることがありますが、授乳を考える上では注意が必要です。

ヒアルロン酸は時間とともに体内に吸収されますが、授乳期に残っていると、しこりのように感じられたり、乳腺炎のリスクを高めたりする可能性があります。

また、乳がん検診の妨げになるという指摘もあり、多くのクリニックでは長期的な安全性の観点から、現在は積極的には推奨していません。

各豊胸手術と授乳への影響度

手術方法	授乳機能への影響	留意点
シリコンバッグ（大胸筋下法）	非常に少ない	バッグの種類やサイズの選択が重要。
シリコンバッグ（乳腺下法）	少ない	大胸筋下法に比べると乳腺に近い。
脂肪注入豊胸	少ない	しこり（石灰化）のリスク、医師の技術力が重要。

シリコンバッグ豊胸は母乳に影響する？

シリコンバッグの挿入位置と乳腺

シリコンバッグ豊胸を検討する方が最も心配されるのが、「母乳にシリコンが混入しないか」という点でしょう。前述の通り、バッグは乳腺の下や大胸筋の下に挿入します。

これは、母乳を生産する乳腺組織とバッグの間に、乳腺の被膜や大胸筋という壁が存在することを意味します。

この構造により、バッグの内容物が直接母乳に影響を与えることは通常ありません。

母乳にシリコンが溶け出すリスクは

現在の豊胸手術で用いられるシリコンバッグは、医療用に開発された非常に安全性の高い素材で作られています。バッグのジェルは凝集性が高く、万が一バッグが破損しても液体のように流れ出すことはありません。

また、複数の研究報告で、豊胸手術を受けた女性の母乳と受けていない女性の母乳に含まれるシリコン濃度には、有意な差はないことが示されています。

このことにより、バッグから母乳へシリコンが移行するリスクは極めて低いと考えられます。

FDA（アメリカ食品医薬品局）の見解

豊胸インプラントの安全性については、世界で最も厳しい基準を持つとされるFDA（アメリカ食品医薬品局）が長年にわたり調査を行っています。

FDAは、豊胸手術と授乳に関する大規模な研究データを分析した結果、「シリコンインプラントが授乳能力に影響を与えるという確固たる証拠はない」としています。

また、母乳中のシリコン濃度に関しても、インプラントの有無で差がないことを認めています。これは、豊胸手術を考える女性にとって、安心材料の一つとなるでしょう。

シリコンバッグに関するFDAの報告概要

項目	FDAの見解・報告
授乳能力への影響	手術が授乳能力を低下させるという確たる証拠はない。
母乳への成分移行	母乳中のシリコンレベルは手術の有無で差がない。
児への健康影響	母乳を介した児への健康リスク上昇は確認されていない。

バッグ破損時の対応と授乳

非常に稀ですが、強い衝撃などでバッグが破損する可能性もゼロではありません。もし破損が疑われる場合は、速やかに手術を受けたクリニックに相談し、検査を受けることが重要です。

万が一破損していた場合でも前述の通り内容物が広がることは考えにくいですが、安全を期して授乳を一時中断し、医師の指示に従う必要があります。

定期的な検診を受けていれば、万が一の破損も早期に発見できます。

脂肪注入豊胸と授乳機能の関連性

脂肪注入が乳腺へ与える影響

脂肪注入豊胸は、ご自身の細胞を使うためアレルギー反応などの心配がなく、自然な仕上がりが期待できる方法です。

注入する脂肪は、乳腺組織のすき間や皮下、大胸筋の上などに少量ずつ分散して注入します。このため、乳腺や乳管を大きく傷つけることはありません。

授乳機能への影響は非常に小さい手術方法と言えます。

しこり（石灰化）と乳がん検診

脂肪注入豊胸で懸念される点の一つに、注入した脂肪の一部が壊死し、しこり（石灰化）を形成する可能性があります。

この石灰化は良性のもので健康上の問題はありませんが、乳がん検診のマンモグラフィ検査で、がんによる石灰化との区別がつきにくい場合があります。

このため、経験豊富な医師が、石灰化が起こりにくいように丁寧に脂肪を注入する技術が求められます。また、検診を受ける際は、必ず脂肪注入豊胸を受けたことを申告することが大切です。

脂肪注入豊胸のメリット・デメリット

項目	内容
メリット	自己組織のため安全性が高い、自然な感触、部分痩せも同時に可能。
デメリット	大幅なサイズアップは難しい、脂肪の定着率に個人差がある、石灰化のリスク。

脂肪の定着率と授乳期のバスト変化

注入した脂肪がすべてその場にとどまるわけではなく、一部は体に吸収されます。この脂肪がバストに定着する割合には個人差があります。

授乳期には女性ホルモンの影響でバストが大きく張りますが、授乳が終わると元の大きさに戻ろうとします。

脂肪注入によるバストも、この自然な変化とともにサイズや形が変わる可能性があります。この変化も考慮した上で手術計画を立てることが望ましいです。

授乳への不安だけではない 将来を見据えた豊胸手術の考え方

妊娠・出産によるバストの自然な変化

豊胸手術の有無にかかわらず、妊娠・出産を経験すると女性のバストは大きく変化します。これは、授乳の準備のために乳腺が発達し、バスト全体がサイズアップするためです。

この時期のバストの張りは一時的なもので、授乳が終わるとともに少しずつ元の状態へと戻っていきます。

妊娠・授乳期におけるバストの主な変化

時期	主な変化	主な要因
妊娠期	サイズアップ、乳輪の黒ずみ	女性ホルモン（エストロゲン、プロゲステロン）の増加
授乳期	さらなるサイズアップ、張り	乳汁分泌ホルモン（プロラクチン）の分泌
卒乳後	サイズの縮小、下垂、ハリの低下	乳腺の萎縮、皮膚の伸展

授乳後のバストはどう変わるか

授乳を終えると、発達した乳腺は徐々に萎縮し、バストはサイズダウンします。

このとき、妊娠中に伸びた皮膚が元に戻りきらず、バスト全体にハリが失われたり、下垂（垂れ乳）したりすることがあります。これは多くの女性が経験する自然な変化です。

豊胸手術を受けている場合、この変化が土台となるバストの形に影響を与え、手術直後とは違った印象になる可能性があります。

例えば、バッグが入っていることで、皮膚のたるみがより目立ってしまうケースも考えられます。

ライフプランの変化と豊胸手術

豊胸手術は一度行ったら終わり、というわけではありません。特に、これから妊娠・出産という大きなライフイベントを迎える可能性がある方は、長期的な視点を持つことが大切です。

例えば、「出産前に手術を受けるか、出産後に受けるか」は大きな選択です。

出産前に手術を受ければ、妊娠中のバストの変化や授乳後の下垂などにより、将来的にバッグの入れ替えや脂肪の再注入といった追加の処置を検討する必要が出てくるかもしれません。

ご自身のライフプランを医師と共有し、どのタイミングでどのような手術を受けるのが最も満足度が高いか、一緒に考えることが後悔しないための鍵となります。

長期的な満足度を得るための視点

「授乳できるかどうか」という短期的な不安の解消はもちろん重要です。しかし、それと同時に「10年後、20年後の自分はどんなバストでいたいか」を想像することも大切です。

加齢による変化、体重の増減、そして妊娠・出産。これらの要因がバストに与える影響をあらかじめ理解し、それらを踏まえた上で手術方法やデザインを決めることが長期的な満足につながります。

単にバストを大きくするだけでなく、ご自身の人生に寄り添うバストをデザインするという視点を持つクリニックを選ぶことが重要です。

豊胸手術後に後悔しないためのクリニック選び

医師の技術力と実績の重要性

豊胸手術の成功は、医師の技術力と経験に大きく左右されます。特に授乳機能を温存するためには、乳腺や乳管、神経の走行といった解剖学的な知識が不可欠です。

医師がこれまでどれくらいの豊胸手術を執刀してきたか、その中でも授乳に関連する症例をどれだけ経験しているかを確認することはクリニック選びの基本です。

ウェブサイトの実績や症例写真だけでなく、カウンセリングで直接質問してみましょう。

クリニック選びのチェックポイント

チェック項目	確認する内容
医師の実績・専門性	豊胸手術の症例数、専門医資格の有無
カウンセリングの質	時間をかけて丁寧に説明してくれるか、リスクも話してくれるか
アフターケア体制	術後の定期検診、トラブル時の対応、保証制度

カウンセリングの質と丁寧さ

良いクリニックは、カウンセリングに十分な時間をかけます。患者様の希望を聞くだけでなく、手術のメリット、デメリット、リスク、そして授乳への影響について、専門用語を避け分かりやすく説明します。

あなたの不安や疑問一つひとつに真摯に耳を傾け、納得できるまで対話してくれる医師こそ、信頼できるパートナーと言えるでしょう。

質問しにくい雰囲気を作らず、リラックスして話せる環境かどうかも見極めましょう。

確認しておきたいこと

• 手術によるメリット・デメリット
• 具体的なリスクや副作用
• 授乳機能への影響の詳細
• 術後の経過とダウンタイム
• 費用総額

アフターケアと保証制度の確認

手術が終わればすべて完了ではありません。術後の経過をしっかり診てくれるアフターケア体制が整っているかどうかも、非常に重要なポイントです。

定期的な検診は無料で受けられるのか、万が一バッグの破損や感染症などのトラブルが起きた場合にどのような保証があるのか、事前に書面で確認することが大切です。

長期的な安心を得るために、アフターケアと保証制度の内容を必ず比較検討してください。

豊胸手術後の授乳で注意すべき点

乳腺炎への注意

豊胸手術の有無にかかわらず、授乳期は乳腺炎になりやすい時期です。乳腺炎は、乳管が詰まったり、細菌が感染したりして起こる炎症です。

豊胸手術を受けている場合、バッグが乳腺を圧迫することで乳汁の流れが滞りやすくなる可能性も指摘されています。

授乳後は母乳をしっかり出し切る、体を冷やさない、バランスの良い食事を心がけるなど、基本的なセルフケアがより一層重要になります。

乳房のしこりや痛み、発熱など、少しでも異変を感じたら、我慢せずに産婦人科や母乳外来に相談してください。

乳腺炎が疑われる主な症状

症状	説明
乳房のしこり・硬化	母乳が溜まって硬く感じられる。
痛み・圧痛	触ると強い痛みを感じる。
赤み・熱感	乳房の皮膚が赤くなり、熱を帯びる。
発熱・悪寒・倦怠感	インフルエンザのような全身症状が出ることがある。

赤ちゃんの吸い付きと乳頭の感覚

手術によって乳頭や乳輪の感覚が一時的に、あるいは永続的に変化することがあります。感覚が鈍くなると、赤ちゃんが乳首を吸う刺激が母親の脳に伝わりにくくなり、母乳分泌を促すホルモンの出が悪くなることがあります。

また、赤ちゃんがうまく吸い付けないといった問題につながることも考えられます。

授乳がうまくいかないと感じたら、助産師や母乳外来の専門家に相談し、授乳姿勢や吸わせ方の指導を受けると良いでしょう。

定期的な検診の必要性

授乳の有無にかかわらず、豊胸手術後は定期的な検診が重要です。特にシリコンバッグを挿入した場合、バッグの状態（破損や位置異常など）を超音波（エコー）検査やMRI検査で定期的にチェックすることが推奨されます。

また、授乳期は乳腺の状態が大きく変化するため、自己判断で「手術によるしこりだろう」と放置せず、専門医による乳がん検診を定期的に受けることがご自身の健康を守る上で不可欠です。

豊胸手術と授乳に関するよくある質問

手術からどのくらいの期間を空ければ授乳できますか？

一概には言えませんが、少なくとも手術後半年から1年は期間を空けることが推奨されます。これは、手術による腫れや内出血が完全に引き、バストの状態が安定するのを待つためです。

また、この期間はバストにとってデリケートな時期であり、妊娠による急激なサイズ変化は負担となる可能性があります。

具体的な期間については、ご自身の体の回復状態やライフプランに合わせて、担当医とよく相談してください。

母乳の出が悪くなることはありますか？

手術方法によっては、乳管や神経への影響で母乳の分泌量が減少する可能性はゼロではありません。特に乳輪周りを切開する方法では、そのリスクが相対的に高まります。

しかし、脇の下やアンダーバストからのアプローチで、乳腺組織を温存する手術を行えば、影響は最小限に抑えられます。もともと母乳の出には個人差が大きいため、手術だけが原因とは断定できないケースも多いです。

豊胸手術をしたことは産婦人科医に伝えるべきですか？

はい、必ず伝えてください。妊娠・出産・授乳を通じて、あなたの体を管理するのは産婦人科医や助産師です。

豊胸手術の事実を伝えておくことで、乳腺炎などのトラブルが起きた際に、より的確な診断や処置を受けることができます。

また、乳がん検診の際にも、手術歴を伝えることは正確な診断のために必須です。医療者には守秘義務がありますので、安心して正直に申告してください。

授乳後にバストの形が崩れたら再手術は可能ですか？

はい、可能です。授乳を終え、バストの状態が落ち着いた後（一般的には卒乳後半年〜1年以降）であれば、再手術を検討できます。

授乳後の変化に合わせて、バッグの入れ替えやサイズの変更、下垂を改善するリフトアップ手術、あるいは脂肪注入などを組み合わせることで、再び理想のバストラインを目指すことができます。

まずはカウンセリングで、現在の状態と希望を医師に相談してみましょう。